糖尿病からみた日本の医療経済 2005.9
■ 日本の医療行政
日本では年々平均寿命の上昇と少子化に伴い、今や世界一の高齢化社会になっています。そして医療・年金などの社会保障財政の悪化が懸念されています。このような流れの中で政府においては年々増えている医療費をなんとか抑制しようとの動きが強まっています。医療財政を立て直すために年々自己負担率(窓口負担)を上げてきましたし、それによって受診抑制をも招きかねない政策を行ってきました。今では窓口負担は3割、高齢者でも1割(所得に応じ一部2割)に引き上げられました。イギリスやドイツ(外来)などの先進国では、すでに医療の窓口負担が無料になっていますので、それに逆行した流れです。
ところで本当に日本の医療費は高いのでしょうか?日本の医療費はOECD(経済協力開発機構)諸国で十七番目と低く、米国に比べると、一人あたりの医療費は半分でしかありません。低い医療費でありながら、「健康達成度」や「健康寿命」はWHO(世界保健機関)から世界一と評価されています。これは日本の医療制度が全体として健全に機能していることを表しています。このような状況において世界的にも高い窓口負担による医療費抑制政策は自覚症状の軽い疾患の受診抑制に結びつく可能性が強く、すなわち糖尿病・高脂血症・高血圧などの初期段階での受診が減少し、将来的に平均寿命などを低下させ、疾病重症化によりかえって医療費増加を招く可能性が非常に危惧されるのです。
■糖尿病における医療経済
厚生労働省の2002年「糖尿病実態調査」によると、糖尿病が強く疑われる人は推計約740万人で、糖尿病の可能性を否定できない「予備軍」を含めると約1620万人に達することが明らかになっており、これは成人の6.3人に1人が糖尿病か予備軍になる計算です。一方、現在日本の医療費は30兆円超といわれていますが、その中で糖尿病に掛かるお金はいくらぐらいか概算してみますと、糖尿病の診断治療に1兆2000億円、糖尿病性腎症が進行して人工透析になると大体8000億円で合計2兆円にもなります。また、糖尿病は血管に障害をもたらしますので放っておくと、失明や心筋梗塞、脳梗塞などにもつながるため、個人の生活基盤が失われ、医療費だけでなく、社会福祉の費用まで必要になります。そうすると日本における糖尿病総費用は5兆円と推測され、今後も急激に上昇していくことが予想されています。
糖尿病について、以前から予防と悪化対策の必要性を指摘している立命館大学経済学部教授で医師の柿原浩明氏の試算では糖尿病に対する「啓蒙教育」と「きちんとした血糖管理」により、医療費削減効果は患者一人あたり1000万円であり、さらに7年の寿命を得ることが出来ると推測しています。
■受診抑制ではなく合併症予防で医療費抑制を
このような観点から考えると、今急増する生活習慣病、特に糖尿病あるいは予備軍も含めて、初期の段階から国を挙げて積極的に介入する-たとえば
ー食事療法や運動療法の必要性を理解し実践出来るような体制作りをする
ー血糖自己測定も広く行われるように保険適応にする
ー食後血糖だけが高い予備軍においても必要であれば薬を使うことが出来るようにする
などの糖尿病の進展やさらに発症をも予防するような医療政策が望まれます。そのことが単に目先の医療費抑制を企てるのではなく、将来にわたった国民の健康維持と健全な医療経済に貢献するものと考えます。
2002年に糖尿病療養指導士の制度が発足しましたが、それから3年、当院でも今年6月に初めて糖尿病療養指導士が誕生しました。当院でも糖尿病および予備軍の方の受診が年々増えておりますので、今後とも研鑽を重ねさらに多くの資格者の誕生を目指し、療養指導を充実させたいと考えております。最近の研究では予備軍の時期からすでに動脈硬化が始まっていることが明らかになっております。ブドウ糖負荷試験や食後血糖を積極的に調べることにより予備軍を見逃さないで、初期の段階より食事療法・運動療法を心がけましょう。
医薬分業について 2005.6
-院外処方ではなく院内処方にこだわって-
薬を病院内で受け取ることを「院内処方」、院外処方箋を発行し都合のよい時に自宅近くなど好きな薬局でもらうことを「院外処方」といいます。厚生労働省は院外処方にシフトし、診療と処方を分ける「医薬分業」を進めようとしております。そのメリットとして
1.薬剤師が医師から独立した立場で処方チェックができる
2.薬剤師による丁寧な服薬指導が受けられる
3.処方内容を患者さまへ開示できる
4.患者さまが“かかりつけ薬局”をもつことで薬歴管理や重複投薬の防止が可能になる
などがあげられます。しかし一方では院内処方より割高になったり薬局にも行かねばならず二度手間になるなど患者さま負担が増えるというデメリットもあります。当院では開院当初より院内処方のシステムをとっていますが、院内に薬剤師を配しカルテを見て確認しながら投薬業務を進めております。院外処方と異なり薬剤師がカルテを通して患者さまの病名や治療の目的、病気の経過などを知りながら服薬指導でき、いわゆる医薬分業ではなし得ないような利点もあるものと考えております。また一方では薬剤師が患者さまより得た情報をその場で医師にフィードバックしたり、カルテに記載して皆で情報を共有でき、診療の質をより向上出来るものと考えております。そして同じ施設の中で医師と薬剤師が綿密な連携をとり、一つひとつの処方について互いの情報交換をしながら業務を進めることで、投薬に関してのチェック機能が発揮されるものと考えております。外来の患者さまに対し、受付の段階から始まり、診察、検査・処置、投薬、会計といった一連の行為が、全体の統一性をもち、責任ある応対を通してこそ良い医療を提供出来るものと考えております。
電子カルテを導入して 2004.9
1999年4月に厚生省から「診療録等の電子媒体による保存について」の通知が発行され、カルテの電子保存が認められ、電子カルテ時代がスタートいたしました。電子カルテのメリットは、
1.患者さまへのサービス向上(待ち時間の短縮、インフォームド・コンセントの支援、カルテ開示)
2.質の高い医療の推進(診療支援の推進、情報の共有化)
3.院内業務の効率化(医療事務の省力化、カルテ管理の省力化、カルテ保管の省スペース化)
などが一般的にいわれています。
当クリニックでは2003年12月に電子カルテを導入して数ヶ月が経過しましたが、それまでの経緯、現状そして今後の展望について私見を述べてみます。
以前より電子カルテの魅力は承知していましたが、なかなか満足できるものがなく導入に至りませんでした。とはいうものの躊躇した最大の要因は電子カルテ導入にて、パソコンの扱いになれない医療スタッフに混乱が生じその為に患者さまへのサービス低下につながらないかとの危惧でした。しかし当クリニックでも診療録(カルテ)が5、000件を超えた頃からカルテ棚はギュウギュウ詰めで保管庫を別個に設置せざる得なくなり、物理的にも近い将来は限界になるとの考えで昨年暮れに思い切って電子カルテに踏み切った訳です。
当クリニックでの基本的な診療の流れは、看護スタッフが病歴や既往歴・生活環境などの情報を診察前にまずもって収集するようにしております。また再来の方の場合でも出来るだけ声かけをして病状の変化にすぐさま対処できるように心掛けております。診察までの待ち時間にある程度の情報収集は得られていますが時間の制約上それがカルテ記載にまで到達出来ていないのが現状でした。ところが電子カルテを導入してからは当初は慣れないため時間はかかりましたが、最近は患者さまが診察室に入られた時点で、かなりの情報が電子カルテに入力されていて、医師の立場から少し補足するだけの作業で問診は終了するまでに効率化されています。これはあらかじめフォーマットを作成して情報の入力を効率よくそして短時間で可能にした電子カルテのお陰です。この入力フォーマットは自分らで簡単に手直しや構成を変えることが出来るのが最大の利点です。すなわち工夫すればオリジナルな電子カルテを簡単に作成できるのです。診察所見や検査・投薬指示も軽快なインターフェースを利用することにより、よりスピーディに、より正確にそしてより詳しく入力が可能となっています。さらに凄いことに入力が終了したその時点で医療行為が事務のレセコン(コンピューター)に流れていて、瞬時にして会計計算が終了しているのです。・・・これぞ電子カルテの本領発揮!・・・とその導入のメリットを実感しています。しかしこれは電子カルテでは当たり前のことで、それだけで満足しては宝の持ち腐れとなってしまいます。今後はさらに次元の高いスキルに挑戦すべく検討中です。たとえば疾患単位でのクリニカルパスの作成、看護計画の立案など電子化での利点を生かした有効な使い方を模索しております。それを通してより質の高い医療を提供できればと考えております。

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